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「ベトナムはLGBTQに優しい」は本当? 近年の法的変化・社会変化

世界的にLGBTQに対するさまざまな社会的運動などが活発化しています。東南アジアの中でもタイは、LGBTQに対して寛容な国というイメージがあります。では、タイの隣国であるベトナムはLGBTQに対して、どのような状況にあるのでしょうか? 今回はベトナムのLGBTQに関する現状について紹介します。

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「ベトナムはLGBTQに優しい」は本当? 近年の法的変化・社会変化 - クリスク
9:05

こんにちは!クリスク・ベトナムのリエンです。

突然ですが、みなさんは、「LGBTQ」(注1)という言葉を聞いたことがありますか? 
近年、世界的にLGBTQに対するさまざまな社会的運動などが活発化し、ベトナムにおいてもその潮流が見られています。

2018年にタイで開催された『ニューハーフのビューティーコンテスト世界大会(Miss International Queen)』で、ベトナム代表のHuong Giang(フオン・ザン)さんが優勝しました。ベトナム人がこの大会で優勝したのは初めてでした。

Huong Giangさんは2012年に放送された「ベトナム・アイドル(Vietnam Idol)」という人気オーディション番組に出演し、トランスジェンダーの歌手として有名になりました。いまもLGBTQコミュニティとそのサポーターから多くの応援を受けて活動しています。

この話だけをお伝えすると、ベトナムは非常にLGBTQに優しくオープンな国だと考える人が多いかもしれません。では、実際はどうなのでしょうか?

今回は、ベトナム人のLGBTQに対する認識と近年の変化について紹介します。

(注1)LGBTQ
「レスビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング」を意味しています。これまでよく使われていたLGBTに「クエスチョニング=自分の性別がわからない人、あえて自分の性別をはっきりしていない人」、「クィア=多様なジェンダーを包括し、型にはめられることに抵抗を覚える人」を表すQを加えたものです。

ベトナムのLGBTQコミュニティの状況

ベトナムにおける同性者の最初の記録は14世紀と言われています。その頃から、同性愛は不自然、または邪悪なものとして長い間扱われていました。たった11年前の2009年でも、ベトナムで自らがゲイとカミングアウトした男性はわずか2.5%でした。

iSEE(International Society for Ecological Economics)による近年の調査によると、現在のベトナムでは15歳〜59歳で同性愛者およびバイセクシュアルと名乗った人は約165万人。そしてそのほとんどは差別、偏見、およびいじめ、暴力の対象になっているそうです。

また、ベトナム保健省のデータによると、ベトナム人のうち約0.3~0.5%がトランスジェンダーだと言われており、うち約30万人のベトナム人が性転換手術をしたいと考えているようです。しかし性転換手術の大部分はベトナム国外で手術をしなければならない状況にあります。

参考)Gần 300.000 người Việt muốn chuyển giới

しかし少しずつベトナムでもLGBTQへの理解が進んでおり、LGBTQコミュニティの生活および人権認識に前向きな変化が起きています。

メディアでの変化

2000年代初頭、LGBTQの人々はメディアやエンターテインメント業界でよく意地悪く笑い者にされていました。

iSEEが発表した2004年、2006年、および2008年の研究によれば、ジャーナリストの大多数が差別用語を使って同性愛は異常であることを強調していたことが明らかになりました。

 

 

しかし、ここ数年でメディア業界のLGBTQコミュニティに対する認識は大きく変わりつつあり、明らかに改善されています。

2012年5月から2013年6月まで、ベトナムではゲイやトランスジェンダーの話題をテーマにしたラジオ番組が40番組以上ありました。また、筆者もLGBTQの芸能人が人気のテレビバラエティ番組に頻繁に出演していると感じます。

SNSでの変化

ベトナムの地方部によっては、まだLGBTQを厳しく取り締まる場所が存在していますが、国連ベトナムは、2012年から毎年LGBTQの平等な権利を求める活動「ベトプライド」というイベントを開催するなどして改善を図ろうとしています。

このイベントはLGBTQ以外の人々からも多くの関心を向けられ、応援の声が集まっています。

こういったイベントと連動して、資金調達やLGBTQのコミュニティとその支援者の存在感を高めるために、SNSは不可欠なツールになっています。

法律の変化

過去には、同性愛はタブーだったため、ほとんどの同性結婚式はプライベートで行われなければならなりませんでした。同性同士の結婚は周りの人たちに差別されるだけではなく、罰金も科されていました。

1997年にはベトナムで最初の同性愛者の公開結婚式がホーチミン市で開催されました。この時点ではそのような結婚式は違法ではないものの、同性同士の結婚は法律では認められない状態だったのです。

その後もベトナム国営メディアは同性愛をギャンブル、売春、麻薬密売に匹敵する「社会的悪」として扱っていました。

しかし、2012年にベトナム保健副大臣は同性同士の結婚の合法化に対する理解を示し、政治的見解が根本的に変化したのです。

▼トランスジェンダーの芸能人の結婚式

2013年5月には、同性結婚をサポートするためにベトナムの4大都市で百万人署名運動が行われ、数十万人の署名が集まり、多くの人たちはフラッシュモブダンスに参加しました。

これによって、2015年には同性同士の結婚禁止規定を廃止した改正婚姻家族法が施行され、同性カップルは同棲する権利を得ました。ただ、同性同士ではまだ結婚の法的承認は得られていないため、まだ運動は続いています。

ビジネス・企業の変化

同性愛者の権利や、LGBTQ関連の運動・イベント、海外からのLGBTQの旅行者の成長率などから見えれば、ベトナムは他の東南アジア諸国に比べ同性愛者に厳しくないと評価されているでしょう。

しかし、大部分のベトナム企業はLGBTQコミュニティやその社会運動を公然と支持することをしていない状態です。

しかし、デザイン、ファッション、芸術、エンターテイメントなどの特定の業界は、他の分野よりLGBTに優しいと考えられています。そのため、自身がLGBTQであることをカミングアウトする著名人が増加傾向にあります。

なかでもGil Leさんは中性的な魅力を持つタレントとしてベトナムで大きな影響力を持ち、大手のファッションブランドのインフルエンサーとしてマーケティングには欠かせない存在となっています。

また、従来は美容・コスメの分野は主に女性インフルエンサーの発信地でしたが、現在はLGBTQのインフルエンサーを活用したマーケティングも広がっています。

このような状況の中、ソーシャルメディアマーケティングを行う際にに、単純に男性と女性だけではなく、LGBTQも意識した戦略がますます重要になってくるでしょう。

▼トランスジェンダーの歌手・Lynk LeeによるECサイト「Shoppe」プロモーション投稿事例

まとめ

一部のオンラインを除いて、周りの人たちに差別されず自分なりに生活をできる人やLGBTQコミュニティを中心とするビジネスは、ベトナムではまだ少ないです。

しかし、社会の変化は確実に進んでいるとも感じています。

例えば、筆者はこれまでドラマやバライエティ番組でLGBTQに対する差別的発言がされるのを聞いてきました。しかし、ここ数年でそういう発言や姿勢は確実に減ってきており、今後はなくなるなるのではないかと考えています。

すでに、日本のマツコ・デラックスさんのようにカミングアプトする有名人も増え、才能・実力を持つ人は普通の芸能人として扱われ多くの応援を受けている状況もあります。

また、LGBTQコミュニティに対してオープンな考え方を持つ人が増加したことで、BL(ボーイズラブ)の愛読者も非常に多くなっています。そのため最近までベトナムでは全く出版されてこなかった同性愛をテーマにした漫画や小説の作品がこれから増えていくでしょう。

 

社会的な変化は法律的変化をもたらすはず。

筆者もベトナムは法的にもLGBTQに理解を示し、友好的に受け入れる国に早く変わっていくことを祈っています。

(文:ヴ ティ フオン リエン / 編集:きたざわあいこ)

※本文内で引用されている資料・データ、登場する人物の所属名・役職名などは掲載当時のものです。

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この記事を書いたのは

クリスク・ベトナム マネージャー
東京大学留学後、ベトナム大手IT企業で仕様書の翻訳や通訳を担当。クリスク・ベトナムで広告運用・インフルエンサーマーケティング・マーケットリサーチなどのデジタルマーケティング支援に携わるほか、ベトナム大手出版社でマンガ、小説のベトナム語翻訳も手掛ける。趣味は映画鑑賞、コンサート鑑賞、山登り。

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