こんにちは!
クリスクベトナムのリエンです。
2013年2月、世界最大規模のコーヒーチェーンのスターバックスコーヒー(以下:スタバ)はベトナムに上陸しました。当初は、スタバがベトナムの市場に割って入り、ローカルのコーヒーチェーンの大きな脅威になる見方が多数でした。
しかし、実際には7年間の間に出店したのは、わずか49店舗。これは、日本や他の東南アジアに比べて非常に低い数字です。
また、WeChoiceが2017年に発表した「人気のカフェのTOP10」によると、スターバックスはベトナム国内の4つのコーヒーチェーン・喫茶店に「顧客満足」と「人気度」の指標で劣っています。
なぜスタバは、ベトナムで当初に期待されたほどの人気が出なかったのでしょうか?
今回は、この点について私なりの考察を紹介いたします。
ベトナムの熾烈なコーヒー市場
ベトナムには広大なコーヒー農園があり、2000年から現在に至るまで、世界第2位のコーヒー輸出国の地位を維持しています。
そのため、ベトナムのローカルコーヒー企業はさまざまなメリットを持っています。一つには、コーヒー豆の生産から販売するまでを一貫して行えるということ。これで自社でコーヒーの品質が管理しやすく、中間コストも削減できます。
ベトナムではスタバがベトナムに進出するずっと前から、 街のいたる所にカフェが溢れ 、誰もが気軽に低価格のコーヒーを楽しめていました。
大手コーヒーチェーンの国内店舗数
- Trung Nguyen Coffee … 1286店(2019年6月末時点)
- Highlands Coffee … 1124店(2019年7月末時点)
- Cong Cafe … 163店(2020年1月末時点)
上記のように約50店舗のスタバよりも、他のコーヒーチェーンは圧倒的に店舗数が多い状態ですが、スタバ・ベトナムは「できるだけ早めに店舗網を広げる」ことは目指していないようです。
その一方で、スタバが出店した以降にオープンした「The Coffee House」や近年新しく誕生した「Phuc Long Coffee」といったベトナム国内チェーンの店舗数はスタバを上回っています。
特に、The Coffee Houseは人気度・売り上げともにスタバよりも高いと言われています。
そして、大手チェーン以外にも、ベトナム人に馴染む個性豊かなコーヒー専門店や喫茶店、おしゃれな個人経営のコーヒーショップは少なくありません。個人経営の隠れ家のようなお店を好む国民性もあり、競争はさらに激化しています。
問題はスタバのコーヒー豆にあり?
国際貿易において最も取引されているコーヒー豆はアラビカ種とロブスタ種という2種類です。その中でベトナムで生産されているコーヒー豆の97%は ロブスタ種 。特徴は、すっきりとしたキレがあり、カフェイン量が高く酸味が弱く苦味が強いことです。
一方、スタバで提供さているのは、フルーティーな香りで苦味が少ないアラビカ種です。世界のどの国でも同じ風味を提供するという方針で経営しているため、ベトナムの飲食文化やベトナム人の趣向に従ってローカライズする必要はないとスタバ・ベトナムのCEOは発表しています。
しかし、ロブスタ種の深い苦味に慣れているベトナム人の中には、アラビカ種で作られたスタバのコーヒーが苦手な人は少なくありません。ベトナムでは、「スタバのドリンクメニューに飲みたいものがない」「スタバのコーヒーは自分が思うコーヒーではない」という声もよく聞きます。
簡単に言うと、スタバのコーヒーは高級なアラビカ種を使っていて、けして不味いわけではありませんが、ベトナム人のコーヒー愛好者の口に合わず、魅力的に思われていない可能性が高いのです。
ベトナムのスタバは世界で3番目に高い!
スタバは国によって価格が違います。Value Penguinの2019年調査によると、平均収入に対するコーヒー1杯の値段で、ベトナムのスターバックスの値段は世界で3番目に高いということが分かりました。
ベトナムには、路上のコーヒー屋台や喫茶店にも特色があり、ベトナムコーヒー文化独自のアイデンティティを持ったお店が数多くあるカフェ大国として知られています。
このようなお店では一般の労働者が気軽に飲める価格として100円〜150円という低価格のコーヒーを提供しています。500円程度のスタバのコーヒー1杯と同じ価格で、他のカフェや喫茶店では2、3杯コーヒーが飲めるのです。
スタバ・ベトナムは設備への初期投資と運営費が高額であり、狙っている客層がビジネスマン、OLや外国人であることなどから、賃料の高いショッピングモールやオフィスビル、高級ホテルに出店しています。
集客・宣伝に絶好のロケーションしか狙っていないため、スタバ・ベトナムの賃料はベトナム国内のコーヒーチェーンより30%〜2倍くらい高くなっていると考えられます。
しかし、スタバ・ベトナムが提供している店内空間は他のコーヒーチェーンに比べて、どのくらい高級感や居心地に違いがあるのでしょうか?
スタバとベトナム国内チェーンを見比べてみよう
Trung Nguyen
Twitter beans coffee
Starbucks Vietnam
いかがでしょうか?
ぜひ、各店舗のFacebookページ投稿などもチェックして、比較してみてください。
ほとんどのカフェは、面積と立地以外、内装や提供されているサービスに決定的な違いがあるとは言いづらいと思われます。
国内のコーヒーチェーン店も「おしゃれ」「高級感がある」というベトナム人顧客のニーズを満たすことが十分にできており、独自性があり新しいと個人的には感じました。
ベトナム独自という視点で見れば、ユニークなレトロコンセプトと魅力あふれるドリンクメニューで話題になったカフェチェーンは恐らく「Cong Cafe」しかないでしょう。「Cong Cafe」は、ベトナム独特の居心地の良さを作り出すことに成功しています。
Cong Cafe
値段・味以外にスタバが受け入れられにくい点はある?
コーヒーを飲むためにカフェに行くのは当たり前ですが、勉強・読書やインターネットで動画を楽しむなど別の目的で利用する人も大きな割合を占めているはずです。
例えば、カフェの利点にWi-Fiや電源の利用があげられますが、スタバ・ベトナムの店舗では、Wi-Fiは1時間しか使えません。続けて使いたい場合、新しい商品を注文する必要があります。
ここからはあくまで個人的な意見になりますが、カフェに週4回ほど行く私は、Wi-Fiアクセスだけでなく、お水が無料で飲め、職場で働くように長居ができるカフェを求めています。しかし残念ながら、スタバにはこのような点で差別化できるようなポイントをなかなか見つけられていません。
まとめ
国によってコーヒーに対する文化が異なります。国内企業との激しい競合の中で、スタバはベトナムで「大人気」とは言えない状況にあります。
この状況が「狙い通り」でないのであれば、スタバは、ベトナム人のコーヒー文化への理解と、地元の人が好むメニューへの適応、コーヒーの値段の引き下げなどを検討する必要があるかもしれません。
すでに人気の飲食ブランドであっても、海外で成功するには進出する土地に根付いた文化とニーズを満たした上で、ブランドの独自性を発揮することが欠かせません。
そのために、事前のリサーチなどは現地の文化をよく知る人とのコネクションや、ブランドの発信方法を工夫することが必要でしょう。
(編集:きたざわあいこ)