こんにちは、クリスク・ジャパンの劉(リュウ)です!
コロナの感染拡大阻止に成功したと言われる、お隣の国「台湾」では、4月より海外旅行が再開されました。
対象国はパラオのみですが、台湾の旅行業界は盛り上がりが起きており、台湾社会にも大きな反響がありました。
コロナ禍のいま、海外旅行の再開時期に関心がある方は多いと思います。
今回は台湾の海外旅行再開の背景、また再開後の反響などをお届けしたいと思います。
今回の台湾の海外旅行再開は「トラベルバブル」の形が取られています。
トラベルバブルとは、
地理的・社会的・経済的に結び付きが強い隣国同士が一つのバブルの中に包まれていると見なし、協議した国の間でのみ旅行を目的とした往来を可能とする、コロナ禍での海外旅行の仕組みです。
入国前のPCR検査が陰性、またはワクチン接種歴を提出することで入国後の隔離が不要となります。
アジアでは台湾とパラオ以外に、感染拡大により延期されていたシンガポールと香港も5月より再開の意思が示されました。
シンガポール政府は国内のワクチン接種率を加速させ、香港をはじめトラベルバブルをさらに拡大する方針を固めています。
アジア以外では、ニュージーランドとオーストラリアも4月19日よりトラベルバブルの運用を始めました。
2020年11月に、香港とシンガポールのトラベルバブル構築の検討が始まりました。
それに続き、台湾政府もパラオ、シンガポール、グアムなど、コロナの感染状況が落ち着いている国々とトラベルバブルの協議を開始。
その後約半年間、医療資源、ワクチン接種状況、感染状況などを踏まえて検討し、2021年4月からパラオとのトラベルバブルを開始しました。
アジアでトラベルバブルを実現したのは台湾が初となります。
パンデミックに苦しむ日本や世界各国とは違い、台湾はパンデミックの初期段階で第一波流行を収束させることに成功してから、台湾国内での感染はほとんど発生していません。
2020年12月に約8ヶ月ぶりの台湾国内感染クラスターが発生しましたが、2ヶ月で感染状況は収まりました。2月10日以降には、国内感染者0人の記録を維持してきました。
(※2021年4月24日、パイロット感染クラスターが発生。29日時点で国内感染者の7人を確認しました)
また、3月から医療関係者をはじめ、高齢者、基礎疾患を有する方を優先する形で、ワクチン接種のスケジュールを公開しました。
全ての国民が無料で接種できるわけではないですが、2,000〜3,000円を支払って自費接種も可能です。
コロナ禍以前、パラオは台湾人の主要観光国ではありませんでした。
パラオは台湾と外交関係がある15カ国のうちの一つで公的な往来は多いものの、台湾からの観光者数は年間1万人程度でした(参考:2019年の台湾人訪日者数は489万人)
なぜ台湾政府がパラオを最初のトラベルバブル対象国に選んだのでしょうか?
理由はいくつかあります。
パンデミック時期の航空往来、良好な外交関係、ほぼゼロのコロナ感染状況と高いワクチン接種率が台湾とパラオのトラベルバブル実現の理由です。
一年ぶりの海外旅行再開は、台湾現地で賛成派、反対派とに分かれ、マスコミやネットも盛り上がりました。
その大騒ぎの中、4月1日、第一便の3泊4日のツアーに96人が参加しました。パラオ大統領もこれで台湾へ訪問、アジア初のトラベルバブル体験者となりました。
パラオへの飛行は週に2便、中華航空(チャイナエアライン)が運行し、一便あたりの乗客人数は110名、週に220名が上限となっています。
トラベルバブル中のパラオ旅行は誰でも参加できるわけではなく、参加者基準はやや厳しくなっています。
参加者は旅行前後と旅行中に様々な制限が付けられています。従来の海外旅行とは大きく変わり、旅行前後のPCR検査は必須となりました。
話題になったこと、そして連休があったおかげで、第一便は完売の大成功を収めました。しかし、それ以降は乗客率が50%以下に急落。
参加者のほとんどが業界関係者とその知人と言われ、第5便から2便連続でキャンセルという状況になっています。
ネットでの注目度とは大きく違い、台湾人はパラオ旅行に冷たい反応をしました。
パラオはもともと台湾人の主要旅行先ではありません。そして厳しい旅行規則と高額な旅行費用が主な原因と考えられます。
最も大きな原因は、旅行費用の高さしょう。
コロナ前のパラオへの団体旅行費用は平均25,000〜30,000台湾ドル(70,000〜85,000円)でした。しかしトラベルバブルの方針に沿って防疫対策が必要なため、その費用が加わり旅行費用は以前の2〜3倍となりました。
そして、隔離期間の支出も考慮しなければなりません。
家族とトイレ、お風呂の共用は禁止されていますので、ホテルでの隔離が必要となる人が多く、そのための宿泊費が1日9,000円程度掛かります。
また、旅行規則を守るために長い休暇が取れません。
旅行日数自体は4泊5日や3泊4日ですが、出発前に必要なPCR検査は平日しか受けられないため、そのための休暇を取る必要があります。そして帰国後には5日間の自宅やホテルでの隔離生活が必要なため、それだけで総計最大6日の休暇を取らなければなりません。
それ以外にも、海外から帰った人に嫌な気持ちになる台湾人がいたり、ワクチンを接種できないと出国したくないという声もあります。
最初から多くの旅行業者はインフルエンサーとメディアを連携し、第一便の参加を招待するなどの猛烈なプロモーションを行って台湾現地で話題となりました。
彼らは旅行前の準備から、パラオ旅行に関する知識と注意事項を記事化したり、旅行中の実況をSNSでアップロードしたり、帰国後の隔離生活を記録してプロモーションとして活用しました。
ブロガーのChoyceさんの投稿では、空港のPCR検査の実況が見られます。
また、第一便の参加者は帰国後のPCR検査が全員陰性となったことにより、台湾政府は4月14日以後の帰国者は、隔離条件を緩めて公共交通機関の利用と公共の場への外出が可能となりました。隔離期間、家族と一緒に暮らすことも可能となり、参加者への負担は以前に比べ減っています。
防疫認定ホテル数を増加するなど、パラオ側も様々な努力をしています。
またチャイナエアー以外にも、エバー航空、タイガーエアー、パラオ航空などの航空会社もこれから参加予定で、コストを抑えて参加意欲促進を目標しています。
そのため、5月以降出発の便の価格は最初の半分程度になりました。
ただし、防疫対策のコストが必要なため従来のような格安旅行はしばらく難しいでしょう。
台湾とパラオのトラベルバブル実現がしたことによって、withコロナ、またはアフターコロナの海外旅行の傾向が見えてきました。
台湾をはじめ、アジア各国ではトラベルバブル実施の動きが徐々に広がっていますが、以前のように自由に旅行するようになるのは、もう少し先になりそうです。
しかし、トラベルバブルの実施状況によって、Withコロナの中の旅行方式の変化を先読みし、旅行者に対してマーケティング手法を見直すことが、いまできる重要な取り組みの一つと言えそうです。
(執筆:リュウ ズーイー / 編集:きたざわあいこ)